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【ゾーリンゲン】

 ゾーリンゲン。その言葉には刃物に関わる我々にとって、競争心と共に、古くからの憧れにも似た思いを抱かせてくれる響きがある。子供の頃からよく話しに聞いたゾーリンゲンとは、最初ドイツのメーカーの名前だと思っていた。刃物、金属洋食器の産地として世界的に有名なゾーリンゲン市は、デュッセルドルフから車で40分程のところに位置する地方都市である。
 書物によれば人口約17万人の内、1万人が140の工場に従事しているとのことだったが、想像していたような工業都市というイメージには程遠く、周囲を山や森に囲まれ、自然に恵まれたのどかな丘陵地域にあった。日曜日の朝というせいもあったのだろうが、人の姿もまばらで街全体がひっそりとしていた。
 最初に訪れた「ライン工業博物館」は、閑静な住宅街の通りに面したレンガ造りの建物であった。通りとは反対側の入口に回ると、往年の活躍ぶりを偲ばせる赤錆びた古い鍛造機やプレス機械がモニュメントの如く置いてある。日本でも昔使われていたものと同じ機械達を前に、越後職人達は彼の地で旧友に出会った気がしたのか、駆け寄って撫でてみたり、写真を撮ったりと。ふと見上げれば古い赤レンガの煙突が高くそびえ、ここがかつて工場であったことを彷彿させる。


「ライン工業博物館」

 入場料を払って中に入り、この博物館が百年以上前から大規模な鋏工場であったとの説明を受ける。黒光りする大きなディーゼル式の発動機が役目を終えて横たわり、次の部屋には百年前に使われていた蒸気機関の原動機。いずれもベルトを伝って工場全体に動力を送り届け、正にこの工場の原動力となっていたようだ。
 二十世紀初頭の水研方式の砥石台や、原理としては現在多くの工場で使われている自動研削盤と同じと思われる機械も展示されている。 地場産業の進化、近代化に貢献してくれた古い道具達をスクラップとして捨ててしまうのか、それとも歴史の一片として後世に残しておくのか、捨ててきてしまった者達にはもはや後者の選択は出来ない。
 更にこの博物館には千年を遡る刃物、道具の変遷、ゾーリンゲンの歴史が誇らしげに残っていた。 誰ともなく「三条にも欲しいね、こういうの。」
 博物館というのに奥からガタン、ガタンと音がする。一人の職人が美粧鋏の生地をプレス機で抜いていた。傍らにある旧式のベルト式鍛造ハンマーもまだ現役のようだ。この工場はまだ生きているのだ。

 次に訪れた「ドイツ刃物博物館」では、更に古い紀元前から近代までの刀剣の歴史を垣間見る事ができ、教会の鐘の音を聞きながら石畳の続く街を後にした。

「刃物博物館近くのマルクト広場にて」

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